これは壁 Advent Calendar 2023の記事です.
タルトタタンの壁
これは,タルトタタンの魔力にとりつかれた1人の男の物語である.
みなさん,タルトタタンはご存じでしょうか.おそらくよくわからない人が半分,なんかリンゴのタルトみたいなやつでしょう???という人が残りの半分といったところだろうか. 基本的にはケーキ屋さんでみることが多いのだが,お世辞にも綺麗な見た目ではないので,買ったことがない人も多いだろう. そんなタルトタタンに魅了されてしまって早5年の私が語る,タルトタタンの壁.
出会い
三越前にある古典フレンチの名店,ラ・カルト・セジュールの11月のデザートにタルトタタンが登場する. だいたいマルキーズ・オ・ショコラというチョコレートケーキか2択から選べるのだが,2018年の私は何を思ったか,マルキーズ・オ・ショコラを選択. しかし同じテーブルの他の人が頼んだタルトタタンを少しもらい,マルキーズ・オ・ショコラを選んだことを大変に後悔したという(ちなみにマルキーズ・オ・ショコラもめっちゃうまいよ). それ以来タルトタタンが頭から離れなくなり,タルトタタン作りに精を出すこととなる….
図1: ラ・カルト・セジュールのタルトタタン
自作
フランス菓子の料理本にあるレシピにしたがって作ったのがこのタルトタタンである.
図2: 自作タルトタタン(ホール,カット);2019年作
なんかそれっぽいけど違うような….ケーキ屋で見るタルトタタンもこんな感じのが多い. 味は,リンゴのキャラメリゼみたいな感じで美味しいといえば美味しいのですが,ちょっといなたい味. 色々調べてみると,羊羹食感のタルトタタンなるものがあるらしいが,全然ほど遠いフレッシュ食感.
次なる出会い
こんな感じのタルトタタンをよく焼いていたのだが,なんかしっくりこない. そんな中,デザートコースで衝撃のタルトタタンと出会う. ねっちりした食感で,まさに羊羹.
図3: VERT開店前のイベントのタルトタタン
どうしてこんな食感になるのかよくわからず,作り方を聞いたら丁寧に教えていただけたので,自分がやっていたレシピと比べてみると,大分砂糖の量が違いました. 砂糖は脱水効果があるので,砂糖を増やすと水分が抜けてねっちりするのと,リンゴのペクチンが固まるのも関係しているかもしれません.
これで作ると確かにねっちり食感にはなるのですが,ちょっと甘さが気になる.
タルトタタンの壁
このあたりでタルトタタンの壁にぶつかる.
甘さとねっちり食感のトレードオフの壁
ねっちり食感にするには砂糖を増やさないといけないが,砂糖を増やすと甘くなってしまう. 甘さ控えめでねっちり食感のタルトタタンを作ることは可能なのだろうか.これがいわゆる「甘さとねっちり食感のトレードオフの壁」である.
焼きムラの壁
私はホールでタルトタタンを作るのが好きなので,大きい型で焼いていたのだが,どうしても焼きムラが気になる. 中までしっかり火を入れると外が堅くなってしまうし,外の食感を優先すると中の火の通りが甘くなってしまう. これがいわゆる「焼きムラの壁」である.
壁突破
なんか壁突破できた.
図4: 壁突破自作タルトタタン
まず焼きムラの壁だが,途中でいったんリンゴを全部ほぐして型に詰め直すことで突破した. よく焼けるとこと,火が通りにくいところがあるので,火が通ってないリンゴをよく焼けるところに配置しなおすことで均一な火入れを実現する.
次に甘さ控えめのねっちり食感だが,これはなんかうまく焼けばできる. ただし,相当嵩は減る.上の写真のカットにはリンゴ1個分使われているはずだが,結構薄い.
壁突破レシピ
- ストウブ鍋を買う(20cmくらい?)
- 紅玉6個を1/8にカットし,それをさらに横に1/2にカットする
- 皮と芯は水で煮だして煮詰める
- カットしたリンゴは,その重量の8%のキビ糖を振ってしばらく放置.そのあと,重量の3%ほどの溶かしバターを和える.
- ストウブ鍋に詰め込んで,180℃で2時間くらい焼成.はじめは蓋を開けて焼くが,リンゴが乾いてきたり焦げそうになってきたら蓋を閉じる.
- 少しかさが減ったら,皮と芯を煮出した液を投入し,さらに焼く.
- 3,4時間焼いたら,蓋をしてオーブンで1晩放置.蓋をしておくと,全体的にしっとりする.
- 次の日,いったんリンゴを全部出して,ほぐして並び替える
- 170℃で好みの焼き加減まで焼く
- 下の生地を焼いてくっつければ完成
- 生地をストウブの鍋の蓋で抜くとちょうど径がそろっていい感じ
- 私はパータ・フォンセを使うことが多い
さらなる高みを目指して
衝撃のタタンを出したVERTはさらなる高みへ行っています. 上のレシピで8%とかでやってるのは,VERTでやっているからです.パクリ!
図5: VERTのタルトタタンの現在地点